お母さんが帰るとき

病気の治療は、基本、抗がん剤を計画どおりに飲むこと。とても変な匂いのするものや、気分が悪くなるものがある。とても辛い。吐くこともある。

そして、もっとも辛いことの一つが、骨髄注射だ。髄液系統に白血病細胞が入って行かないように、抗がん剤を直接注射するんだ。(点滴では血管系統に抗がん剤が回るだけ。)とても痛いから全身麻酔をお願いする。けれど、導入するとき、覚めるとき、とても気分が悪くて、そして不安になる。付き添ってくれるお母さんの声が聞こえるけれど、見えない。見えたら、ぼんやりして、二重三重に見えたりする。髄液の圧力が変わるらしく気分もとても悪い。

同じ部屋に、友達がいたり、お母さんが付き添ってくれたり、たまには、お父さんやお兄ちゃんお姉ちゃんがお見舞いに来てくれるので、昼間は大丈夫だ。ちょっと面倒だけど、学校もある。気分が悪いときは、先生がベッド横で教えてくれる。相談にも。

一番辛いのは、家族全員で来てくれたあと、帰っていくとき。僕は眠ったふりをするけれど、眠れるわけないもん。みんなが病棟の出口のあたりまで歩いて行くと、思わず、点滴を引っ張って追いかける。病棟の出口でバイバイってする。「また、明日」。

お姉ちゃんがなかなか帰らない。お母さんも。お父さんはさっさと帰って行ってしまう。早く外泊でおうちに帰りたい、っていつも思った。みんなと同じお布団で眠りたいって。

今でも、思い出すと、涙が出てくる。